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沖縄・由布島の水牛車

Writer:岡並木 Photo:那須盛之

西表島から由布島まで牛にひかれて

05121e4c567361dd19164bf4575dca47bf87d92c.jpgイラスト●那須盛之

 あるグループから、八重山の島に行こうと誘われた。訪ねるのは沖縄本島の先、石垣島、西表島、黒島、竹富島だという。ボクにとっては未知の世界だ。

 二泊三日という時間を作るのが、いまの生活ではちょっときついと思ったが、西表島のスケジュールの中の次の一行で、ボクは万難を排して「行こう」と決心した。

「水牛車にて由布島渡島」。渡島というからには、海を渡ることだろう。しかし水牛車っていったい何だろう。東南アジアの各地で、いろいろな自然発生的な乗り物を試した経験はあるが、水牛を耕作に使っている国で、水牛車といった乗り物はお目にかかった記憶はない。スケジュールをさらに読むと、竹富島でも水牛車観光とある。ますます行かざるを得なくなった。

 三月初め、出発の日の早朝、東京は雲で覆われていた。だが、石垣空港に着くと、太陽が顔を出した。よかったねぇ。お互い幸運に感謝した。ところが、幸運はそこまで。

 夕方からは篠突く豪雨。翌朝、小雨にはなったが、雲は切れない。その中をボクらの快速艇は西表の大原港を目指す。キャビンの屋上に上がってみた。雨混じりの風はきついが、爽快。右手に幾重もの山がそびえる西表。左に低く平らに浮かぶ黒島、竹富島。

「あの島々には、電気も水道も石垣島から海底の電線とパイプで送っているんですよ」。横にいた青年が教えてくれる。

 約四十分。大原港に。底の浅いボートに乗り換え、仲間川を上る。水路の両側の水面にはマングローブの密林。木の根元の泥の中に独特のカニがいて、おいしいと船長の青年がいう。

 やがて小さな木の桟橋に上陸。覆いかぶさる木の枝を分けて、三十mほど歩くとシマスオウノキの巨木が。大地から盛り上がった異様な根の形に度肝を抜かれた。普通の木の根とは違い、丸い形をしていない。板根という根で、幹の周りに、幅一m余りの大きな舟の舵の板を何枚も直接取り付けたような格好だ。事実、昔はこの板根を舟の舵に使ったという。

 それぞれの板根の高さは三、四mもあろうか。板根と板根との間に入ると、そこでカップル同士が抱き合っても、ほかからまったく見えない。

 大原に戻って、バスで七km北上、美原へ。ここでいよいよ水牛車だ。渡る先は四百㍍沖合の小島、由布島だ。だが海辺に近い空き地にたむろしていたのは、馬の代わりに水牛が引っ張るゴムタイヤの「馬車」〟である。乗客が乗るクルマも、舟にはなっていない。となると、どうも海面に浮くわけではなさそうだ。しかし、客室に草葺きの屋根が乗っているのが面白い。

 十七、八人が乗り込むと動きだす。二十mほどで海。水牛はそのままゆっくりと海に入る。水は次第に深くなるが、どうも水牛の膝より少し上あたりが、いちばんの深みのようだ。ボクらの乗ったクルマも水に浸かっているのは車輪の軸棒くらいまで。

 水牛が泳ぎ、クルマも水面に浮かぶ。そんな期待は外れたが、澄みきった海の上をのんびり水牛車で行くという経験は、激しい雨の中ではあったが、けっこう思い出に残りそう。

 振り向くと、小さな水牛が水飛沫をあげて追いかけてきた。ボクらの牛の子供らしい。追いつくと横に並んで歩きだした。

 やがて上陸。クルマはそのまま二百mほど進み、林の中の終点で止まる。なるほど馬車と違い、水牛車は水陸両用、ホバークラフトのような独特のシステム。うまい知恵だと改めて感心した。

 大原港から二十分で黒島。まず黒潮が洗うという南東の海岸へ。海に突き出た堤防があって、その右側、つまり南側の岸を見て驚いた。ゴミがいっぱいなのだ。それは台湾をはじめ、南の国々から流れ着くゴミだった。プラスチック製品、テニス用らしい白や黄色のボールなどである。なるほど中国語で書かれたプラスチックの一㍑ビンがやたらに転がっている。

 グルクンという地元の魚の唐揚げあんかけなどで、昼食を楽しんだ後、最後の竹富島へ。人口三百人足らずの島だが、沖縄で唯一の街並み保存地区がある。薩摩藩の重税にあえいだ歴史や、暑い風土が生んだこの島の文化の片鱗を、喜宝院という寺の蒐集館で見る。蛇などの侵入を防ぎ、かつ風通しをよくするために、縁の下の縁に竹を隙間をおいて並べ、床も板の代わりに竹を敷いた昔の住宅の再現が面白い。

 ここでも水牛車に乗ったが、水陸両用ではなく、道路専用。屋根は沖縄の赤瓦もどきの安手のデザインで、風情は由布島の勝ち。水牛はひとりで左に、右に、道を選んで終点へ。この利発さが心に残った。

名コラムニスト、岡並木さんのアンコール・エッセイをお届けしました。  (1990年5月10日号原文掲載)

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