連載第3回 新型ダイハツ・タント プロトタイプ もしやタントはN-BOXの真の敵じゃなかったのかも? の巻

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■プロフィール 小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』

●そもそもメーカーとしての生きる道が違う 

「アチラは登録車からの買い換えも多い。生きる道が微妙に違うんです」(エグゼクティブ・チーフエンジニア南出洋志さん)

 うすうす気づいてましたが、当のダイハツ開発者にいわれてびっくりしました。それは先日遂にクローズドコースで試乗した新型4代目ダイハツ・タントプロトタイプ。ご存じ高さ1.7m超の軽スーパーハイトワゴンの元祖で、今夏はいよいよ4代目登場って予定。

 かつては自慢の助手席ピラーレス構造で販売トップに君臨、いまや2011年登場の後発ホンダN-BOXに押されまくり。

 ましてや2017年にいち早くN-BOXの2代目が登場。これまた予想外のバカ売れで、軽どころか2年連続で登録車含むオールジャンル国内販売1位になっているのに対し、現行タントは2017年軽販売ランキング5位で18年ランキング4位。ホンダどころかスズキ、日産にも負けている始末で、ちょっと悔しくないのかと思いきや...

南出 ホンダさんはフィットからのお客様も多く、それに見合うだけの質感とショールームクオリティを提供されています。タントもやればできるでしょうけど、同じぐらいの値段になっちゃうので。

小沢 つまり似ているようで違う勝負をしているのだと。

南出 その通りです。

 かつての軽ブランドツートップ、ダイハツ、スズキは価格帯にしてほぼ150万円以下の軽自動車枠内で勝負をしていました。その中の延長線での初代、2代目タントの活躍でした。

 ところがN-BOXは150万円以上が主流で、軽と同時に白ナンバー車も相手。ホンダブランドがゆえの上位食いですが、要はタントとN-BOXは似ているようで一部全然違う。軟式テニス選手と硬式テニス選手が同時に戦っているような、ヘンな違和感があるのです。

●走りの質は一部N-BOXを超え! しかし目的はダイハツ全体の競争力アップ

タント1web.jpg▲新型ダイハツ・タント・カスタム 新しいプラットホームDNGAを採用したプロトタイプに試乗した

 実際に4代目のプロトタイプに乗ってビックリ。まずはボディ剛性です。新型は新世代プラットフォームの「DNGA」初採用。トヨタ「TNGA」のダイハツ版ですが、エンジンからCVT、シャシーまで全域で進化しています。しかも、この世代からコンパクトクラスのA&Bセグメントでも同じ物作り思想のDNGAを採用する。ダイハツ全体で、考え方の共有化を図っているのです。

DSC_1956web.jpg▲新開発プラットホームDNGAは厚みの異なる鉄板を巧みに採用して剛性と軽量化を両立 写真の赤い部分は1㎜厚でシルバーの部分は厚さ0.5㎜程度という

 いわば小学生から中学生から高校生まで教科書は違えど、同じスケジュールで勉強するような感じでしょうか。当然、底ヂカラはアップするわけで、驚かされたのはステアリングと乗り心地のしっかり感。相変わらず剛性を確保しにくい助手席ピラーレス構造ですが、いままでの頼りない軽自動車フィーリングは一新され、白ナンバー車並みのしっとり感すら漂います。

タント6web.jpg▲エンジンとともに新開発したD-CVTは世界初のパワースプリット技術を採用 ベルト駆動に遊星ギアを組み合わせて性能を大幅に向上

 加速性能も現時点ではマイルドハイブリッドなどのテクノロジーは不明ながらも660ccターボ、ノンターボともに力強い。これまたN-BOXに勝るとも劣らずで、おそらくダイハツ独自のエネルギー伝達効率の良い、新作スプリットモード付きCVTが効いています。とくに燃費スペックはよさそうで、発売されたらNーBOXを超えるかも? というレベル。

タント7web.jpg▲新エンジンとD‐CVTの組み合わせで燃費や加速性能、静粛性などをトータルで大きくアップ 新型のアピールポイントのひとつ

 CASE技術(コネクティッド・シェアリング・自動運転・電動化)のアップデートぶりもなかなかで、とりあえずは現行スマアシⅢ用の単眼カメラとミリ波レーダーを使いつつ運転支援性能アップ。高速で車線中央をトレースできるレーンキープ性能を持ったうえ、渋滞時は追従オートクルーズ中の完全停止まで実現。

小沢も所有する2代目NーBOXのホンダセンシング超えは果たしているし、ここまではガチンコN-BOX対抗なのです。

タント4web.jpg▲新型ダイハツ・タント 標準仕様はすっきりと現代風に仕上げているが・・・

 ところが拍子抜けするのはエクステリアとインテリアの出来栄え。外観は前よりスッキリしたとはいえ、NーBOXのような上質感はなく、インパネ全体もプロトタイプがゆえの荒さも残っていますが、特筆すべき質感はなし。内外装ともに軽自動車の枠を越えた感じはありません。

タント2web.jpg▲外観品質は大きく向上したが強敵N-BOXを凌駕するまでにはいたらないというのが小沢コージの見解

 走りが確実によくなっている一方、お金のかかる見た目や着飾り具合で本気でN-BOXを超えようとしているとは、とても思えない。相変わらずの「軽」と「半分白ナンバー車」の異種格闘技戦なのです、タントとN-BOXのバトルは!

 ぶっちゃけ今夏発売されても販売台数でN-BOXは超えないだろうと小沢は予測します。それよりスズキ・スペーシアを超えられるのか? そこがキモになるのではないでしょうか?

 つくづく似て非なる対決なのですタントとN-BOXは!

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