連載第8回目 「クルマは骨盤だ!?」突如いい出したナゾのマツダ新理論を探る

マツダ3別府氏web.jpg▲マツダ3開発主査の別府耕太氏にインタビュー 座っているのは骨盤理論の理解を深める「ながらウォーク」という骨盤運動器具(ぐらぐらするイス)

別府耕太:1998年マツダ株式会社入社。国内販売本部、商品戦略本部商品ビジネス戦略企画部を経て、2015年商品本部で新型マツダ3開発主査に。趣味は食べ歩き(もしくはグルメ)、映画鑑賞、社交ダンス。愛車は初代ユーノス・ロードスター。

●新コンセプトをマツダ3開発者に聞きました

 プレスラインを使わない新魂動デザインや、今秋追加予定の画期的パワーユニット、スカイアクティブXが話題の新型マツダ3ですが、実はボディ作りにも新コンセプトを導入しています。

 それはいわば「骨盤から考える走り」。
 人間の骨盤を立てて運転させるという、独自理論からハンドリング、乗り心地ほか走りすべてを構築しているだけでなく、今後出てくるマツダ車すべてにこの"新クルマ骨盤理論"が入っているとか。
 
 しかし正直、何度聞いても分かりにくいリクツ。ってなわけで開発エンジニアの別府耕太さんを直撃しました。

マツダ3ファストバックweb.jpg▲新型マツダ3ファストバック 新世代に移行したデザインやパワーユニットが注目を集めているが実は「新クルマ骨盤理論」が最も重要なポイントだった

●骨盤理論って一体なんなの?

小沢 新型マツダ3、骨格のプラットフォームから一新しているんですよね。
別府 90%以上が完全新規です。通常の世代交代では、そうはいってもパーツの2~3割はキャリーオーバーなんですけど、今回はボルトとか「本当に変えなくてもいいよね」というもの以外はすべて変えています。

マツダ3セダンweb.jpg▲新型マツダ3セダン プラットホームから足回りなど90%以上を完全新規に作り直した

小沢 一体どこが変わったんでしょうか? 今回のマツダ3から導入した新骨盤理論、つまりクルマのシート、シートレールから一新して骨盤を立たせる構造にして、それを生かすクルマ作りがなされている、みたいな話です。既に何回か聞きましたが、正直わかりにくくて。いわゆるプラットフォームを一新して、ボディ剛性が高まったとか、サスペンションを変えたとかいう次元の話じゃないですよね?
 
別府 なるほど。他の方も指摘されていましたが、今日乗られてすごく身体がラクだったんじゃないかと思います。ステアリングもほかのクルマに比べると操作しやすいと思うんですね。なぜなら骨盤が立った、上半身フリーの状態にいることができるので。いつもだったらここで止まっていた腕がもっと伸ばせる、目線も見たい方向にラクに向けるので、ひとつひとつの動作が余裕をもって早いタイミングでできる。

小沢 ようするに骨盤を立たせた分、身体がラクに動かせると。乗り心地がよくなったとか、ステアリングレスポンスが変わったとかではないんだ?

別府 乗り心地でいえば、厳密には以前より硬くなっています。その分、レスポンスを優先していますので。

小沢 なるほど。あくまでもクルマは骨盤だ! はマツダとして本気なんですね。

別府 本気も本気、クルマ開発の一丁目一番地だと思っています。運転は骨盤からというか、クルマの運転は運動量こそ少ないですが、スポーツそのものであり、人間が歩くのとまったく同じ。歩行もそうですが、すべては骨盤を立たせて行うのが自然なのです。
小沢 運転は、歩行と同じように骨盤を立たせるのが本来の姿であると。

IMG_0224web.jpg▲骨盤を立たせるようシートやシートレールから作りを一新 パッと見た感じでは違いはよくわからないが 座って運転してみたくなる

●マツダ3だと運転に酔わなくなる!?

別府 たとえば、小沢さんが運転しているとして、後部座席の人から両肩を押さえてもらったとします。そんなに強い力じゃないですよ。でも軽く抑えられるだけでステアリングが切れなくなります。いかに運転が身体全体を使っているかの証明です。
小沢 なるほど。

別府 それから今回、マツダ3で極低速で周回していただいたとき、ステアリングを切るにしたがって、お尻にかかっている過重がフラット状態から外側にグーッと移る変化が感じられたと思います。
小沢 そういえばそうだったような(笑)。確かに身体全体を背もたれに預けるような感じはなかった。
別府 あれが逆に骨盤を立てられないシートだと、背中がべちゃーっと背もたれに密着するので、ヘタするとステアリングが切れなくなります。タイトコーナーで普通にステアリングが切れたのは、マツダ3の新しいシートやクルマのお陰もあるかと。

IMG_0449web.jpg▲低い速度でゆっくりとコーナリングすると座面の荷重がフラットから外側に移動する感触が把握できる

小沢 それなら四十肩とかでクビが回らないときに乗ると、違いがよくわかるのかもしれないですね(笑)。身体の硬い老人こそマツダ車に乗ったらいいと。

別府 そういう部分もあるかと思います。マツダ3の思想の中には、いきなり自動運転に行くのではなく、まず人間が持っている能力を使い切ろうという考えがあります。たとえばクルマ酔いにも効果がありますので。

小沢 ホントですかそれ? 親戚ですごくクルマ酔いしやすい子供がいるんです。「運転中は前を見ろ」とかいろいろ教えているんですけど、なかなか効果がなくて。

別府 新型マツダ3は「酔い」と「腰痛」に効くといわれています。社内の腰痛持ちが試乗してもまったく痛くなかった。酔いに関していうと、骨盤が立って頭の揺れが減るので、三半規管が安定する。酔いは、三半規管が揺れてパニックになり、情報が仕切れない状態になることなので。

小沢 なんだか普通のクルマの走りの話じゃないですよね(笑)。
別府 視点が違いますよね。このクルマの良いところは、人間の体幹が使えるのと、すべてが滑らかに動くので、人間がそれに合わせてちゃんと"間"をとり続けられること。

小沢 乗りものというより、スポーツの道具って感じですね。単純に振動をシャットアウトするというより、いかに乗員に正しい情報を伝えるかが大切になっている。
別府 そうかもしれません。

●イメージはマイケルジャクソン

小沢 一方、昔からドイツ車とかドイツのレカロシートは腰のサポート、腰椎のサポートの重要性を提唱しています。かつての論理とマツダの新骨盤理論はどこが違うのでしょう?

別府 かつては腸骨の上ぐらいをグーッと抑えて強制的に骨盤を立たせていました。その一方で、そこを抑えることで背筋自体をフレキシブルには使えてなかった。

IMG_0535web.jpg▲コーナリングでも滑らかな動き ドライバーの上半身がフリーになるのでステアリングを操作しやすい ドライビングが楽になり疲れにくくなる 乗り物酔いも抑制可能

小沢 腸骨って?
別府 骨盤の上ぐらいに腸骨があり、これを無理やり立たせているので動きが抑制されていた。
小沢 マツダ3はどこが違うのかな。より上半身を浮かせている感じになる?

別府 上半身はできるだけフリーに。背中に先にタッチするのではなく、お尻を入れて頂くのがマツダ3のシートです。
小沢 マツダ理論では身体はシートに寝そべらない? その一方、背もたれにも体重はかける? 実際の座り方はどうなります?

別府 「お尻は奥までグッと押し込んで座ってください」と伝えるようにしています。また、足回り開発者が、ずっと「滑らか滑らか」といっていたと思うんですけど、アレがもうひとつのキモです。クルマが曲がるときって、まずはフロントタイヤに前荷重がかかり、ステアリングを切るに従って外輪に荷重が移っていきます。これが現行車はコマ送りだった。動きが悪くて、カ・カ・カ・カって段が付いている状態だった。でもマツダ3はスーッと荷重変化が行われます。

小沢 ♪なんて滑らか~、ですね(笑)。

別府 イメージ的にはダンス。日本舞踊にしろ、骨盤はずっと立ってますが、手足は凄く良く動くじゃないですか。

小沢 マイケル・ジャクソンもそうですよね。手足はクネクネ動くけど、実は背筋はピンと伸びている。具体的にはクルマ作りをどう変えたんですか?

別府 今回、まったくゼロの状態から開発をスタートさせました。その一丁目一番地に、「骨盤が立った状態で乗員が座れて、自然に居れる部分」を持ってきた。そうすると、おのずとシートはこうあるべき、シートとボディの結合はこうあるべき、ボディはこうあるべき、足回りはこう動かすべき、タイヤはこうあるべきだと決まってきます。そうやって作られたのがマツダ3なのです。

小沢 なんとなくわかってきましたけど、やっぱり難しい。また今度詳しく聞かせてください(笑)。

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