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都市部の気温上昇は、舗装率アップが関係しているのか

Writer:岡並木 Photo:イラスト・那須盛之

被覆率の高まりと、ヒートアイランド現象

酷暑と舗装の関係.png

▲イラスト:那須盛之 東京都心部・官庁街・銀座などの商業施設が密集するエリアは被覆率が高い


 この夏の酷暑、どう過ごしましたか。八月二十七日で、東京のこの夏の熱帯夜が四十一日になった。これに次ぐ記録は十六年前、一九七八年の夏で三十九日だった。

 ところで去年(一九九三年)の八月二十七日は、東京を台風十一号の豪雨が襲った。地下鉄の赤坂見附駅では、プラットホームに水が上がったり、東京の日比谷交差点は二十㌢の深さの水に覆われた。山の手の中野区では、神田川の氾濫で、幅二百㍍、長さ二㌔にわたって八百戸が床上浸水した。

 この川は井の頭公園から始まる川だが、氾濫したあたりのちょっと上流で善福寺公園から出る善福寺川と合流する。

 その日の強い雨の中を、ボクは近所の善福寺川の橋まで川の状態を見に出かけた。いつもは深いコンクリート護岸の底にわずかな水が流れているだけの川だが、岸辺から五十㌢ほどのところまで濁流が競り上がっている。ふだんとはまったく違う暴れ川の光景になっていた。

 ところで、今年の熱帯夜も去年の洪水も、実は根は一つだということを、忘れてはなるまい。

 熱帯夜は、いうまでもなく明け方まで気温が二十五度より下がらない夜のことだ。実は、こういう現象は昔からあったのではない。いま書店の店頭に並ぶ『広辞苑』には「熱帯夜」は出ているけれど、一九五五年に出た広辞苑の初版には、この言葉はない。また一九三五年に出版された広辞苑の前身『辞苑』にも、その言葉はない。熱帯夜という言葉が広辞苑クラスの辞書に出ていないということは、そのころにはまだ熱帯夜という現象がなかった、と考えていいだろう。

 戦前、そして戦後もしばらくの間は、東京は、いくら暑い夜でも宵の七時を過ぎたら二十五度より涼しくなった。だから、道路や庭先に縁台を出し、それに団扇と蚊遣り線香があれば、花火をしたり、スイカを食べたりしながら夏の夜を外で楽しめた。  熱帯夜だけではない。東京の山の手の洪水も、一九六〇年代までは、ほとんどなかった現象だ。それまでの東京の洪水による浸水面積の八〇%は、つねに隅田川の東側、江東、墨田の両区だった。それが両区を南北に通る幹線下水道が完成した七〇年の春を境に、両区の洪水は激減、代わって山の手に水害が増えはじめた。いまでは両区の浸水面積は全体の三%にすぎない。

 熱帯夜と山の手の洪水とが、なぜ一九七〇年代に入ると、にわかに東京で増えだしたのだろうか。明治の初め、気象台が開設されて以来、長い間、晴れた日の八月の東京の最高気温の平均は、いまより三度低かった。また一九六〇年代までは、東京と、百㌔東の銚子との夏の最高気温は同じだった、いまは三度から五度、東京のほうが高くなってしまった。

 東京でのこんな調査がある。晴れた日の水面の照り返しが十五度のとき、農地や草地の照り返しは二十四度、高いビルの表面は三十五度、舗装した幹線道路の照り返しは六十度になっている。つまり水分の多い土は、照り返しが少ないのである。東京の気温は、水分の多い土を失うにつれて上がってきた。島を除く東京の農地面積は、東京オリンピックの翌年、一九六五年には全体の十四%あった。ところが八〇年には七%に減り、その後、九三年までには、さらに豊島区一区分にあたる農地が消えて、六%になってしまった。

 これは、土が雨を通さない舗装や建物に覆われる被覆率が高くなった実態を物語っている。東京の被覆率は、一九七四年には区部で六四%、三多摩で三四%、八六年には区部で七九%、三多摩で四九%になった。これだけ照り返しの厳しさが増えたことになる。

 被覆率が上がると、それだけ土が雨を吸い込まなくなる。かつて東京に降る雨の半分は土に吸い込まれていた。ところが土が雨を吸い込む透水率は、一九六八年には区部で一六%、三多摩で四五%。八六年にはそれが区部で一二%に、三多摩で三二%に落ちた。東京の平均では八六年の透水率は二三%になってしまった。したがって豪雨が降ると、雨水は行き場がなくなり、山の手の中小の河川にどっと流れ込み、溢れだす。それが山の手の新しい洪水である。

 かつての江東、墨田両区の洪水はゆっくり溢れて、ゆっくりひいた。山の手の新洪水は、どっと溢れて、さっとひく鉄砲水のスタイルだ。鉄砲水はもともと砂漠の現象だった。東京が砂漠化したという象徴かもしれない。

 道路がアスファルトになって、昔の道を知るボクには、クルマはありがたいほど走りやすくなったと思える。しかし、そのアスファルトが、一面では東京をはじめとする日本の都市に、さまざまな新しい災いをもたらしたことも、ときどき思い出してほしいと思う。

 名コラムニスト、岡並木さんのアンコール・エッセイでした。(1994年10月10日号原文掲載)

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