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暗号「トラトラトラ」の真意

Writer:岡 並木 Photo:イラスト・那須盛之

突入せよ、雷撃機。この命令を短縮してトラトラトラに

本文用その3.jpgイラスト●那須盛之

 西川渉さん(地域航空総合研究所所長)が、真珠湾攻撃で使われた暗号電報「トラトラトラ」について「寅年でもなかったのに、なぜトラという言葉を持ってきたのか」と疑問だという。西川さんによると、「全軍攻撃せよ」の暗号が「ト、ト、ト」。それに「ラ」をつけて「トラ」?「ラとは何の暗号だ。識者の方に教えていただきたい」と、電子年賀状で依頼されていた。

 すると、さっそく福岡県大野城市の繁田哲弥さんという方から「ラ」の字の説明が、電子メールで届いた。

「トラのトは「突入せよ」、ラは「雷撃機」を意味します。トラとは「突入せよ、雷撃機」の符号です。(重い魚雷を抱える)雷撃機は、戦闘能力が劣るため、敵の迎撃準備が完了している状態では十分な力を発揮できません」 「突入せよ、雷撃機」と発信できたのは、戦闘能力に優れた攻撃機による第1次の奇襲攻撃で、敵の迎撃態勢を封じ込めることに成功したからだった、と繁田さんはいう。

 太平洋戦史では、「トラトラトラ」は、第1次攻撃指揮官だった淵田美津雄海軍中佐が、ハワイ上空から空母「赤城」に打電したことになっている。しかし、その「トラトラトラ」を、ボクたちは「突入せよ、雷撃機」の符号としてではなく、単に「奇襲に成功せり」の暗号だと思い込まされてきた。

 繁田さんは、最後にこう書いている。 「この話は高校時代に担任の先生から聞きました。先生は若いころ海軍で情報機器を担当していたとのことで、授業時間の半分は、海軍の飛行機の構造やレーダーの仕組みなど、当時の話を聞かされました。すでに退職されて連絡先も不明なため確認はとれませんが、熱心に説明してくれたので、覚えています」

 ところで、当時、淵田中佐が「トラトラトラ」を伝えたのは、音声でも、ファクスでもなく、モールス信号だった。  トラのトは「・・─・・」、ラは「・・・」である。ボクは子供のころ、友達と学校にあったモールス信号機で遊んだことがある。モールス符号を覚えやすくするノウハウも教わった。

 たとえばイロハの、イは「・─」で、これは伊藤と覚える。ロは「・─・─」で、路傍の塔である。ハは「─・・・」で、ハーモニカ。ニは「─・─・」だが、どう覚えたかは忘れた。ホは「─・・」で、宝石と覚える。ヘは「・」で簡単、屁(失礼)。

 ところで、問題のトの「・・─・・」は特等席、ラの「・・・」はラジオと覚えた。

 いま声で緊急事態を告げる「メーデー、メーデー」は、モールス符号だとSOS「・・・─ ─ ─・・・」だった。

 古い話になってきたが、古いついでにいうと、繁田さんのメールに出てくるレーダーから、こんな思い出が。

 戦争が始まるころ、ボクはまだ旧制の中学生だった。勤労動員で、東京・杉並の工場に動員されていた。日本のレーダーを、専用の自動車に組み込む仕事だった。日本にもレーダーがあったのかと、初めはほっとしたが、無線機器の技師だった従兄弟に真相を聞いてがっかりした。当時の日本のレーダーの有効範囲は、せいぜい十㌔にすぎないと従兄弟はいった。これでは、目で見てもわかる範囲じゃないか。

 アメリカ軍のレーダーの性能とは、天と地ほどの違いがあった。東京の武蔵野市と三鷹市にまたがる井の頭公園が、雲の上から正確に爆撃されたことがある。深い杉の木立と、池の鯉とが、甚大な被害を受けた。それにしても、なぜアメリカは公園を爆撃したのか。

 当時の飛行機に詳しい人から、こんな説明を聞いた。アメリカ軍のレーダーがいかに正確かを物語っている、とその人はいった。ただ、当時はまだ、アメリカのレーダーでも、コンクリートの建物と、水面の区別はできなかった。つまり、井の頭の大きな池の水面を、レーダーはコンクリート建ての工場と間違えたのだろう、という。

 話は違うが、そのころの日産トラックの大きな新聞広告を思い出した。

 そこには、大きく躍るような文字で「ラジオは叫ぶ。イチ、ニッ、サン!」とあった。ラジオ体操のかけ声を、巧みに拝借した宣伝だった。イチロー選手を使って「イチロ、ニッサン」とやっているが、それよりは「ラジオは叫ぶ......」のほうが、おしゃれで強烈だったと思う。

 戦争中のスローガンでは「ほしがりません。勝つまでは」だとか、「贅沢は敵だ」などが有名だが、ボクが好きだったのは、「何が何でも、カボチャを作れ」である。カボチャはどこでも簡単に育つ食料だった。焼け野原の東京のいたるところに、そのポスターはあった。焼け残った路地や、焼けトタンで葺いた屋根の上などあちこちで、カボチャが生き生きと夏の太陽を浴びながら這いまわっていた光景を思い出す。

 名コラムニスト、岡並木さんのアンコール・エッセイをお届けしました。
 (1998年4月26日号原文掲載)

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