三菱ふそうの燃料電池トラックは、なぜ中国製スタックを使うのか? ダイムラーグループにもかかわらず

top.jpg小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』

いよいよ三菱ふそうも燃料電池ビジネスの実車実験段階に!

「ダイムラーとはタイミングが合わなかったんです」(担当エンジニア)

 先日、要注目のクルマに乗ってきた。
 三菱ふそうeキャンターFセルのプロトタイプ(eCanter F-cell)だ。
 
 その名のとおり、水素を燃料とする燃料電池で動く小型トラックである。

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 2019年の東京モーターショーでコンセプトモデル発表。2020年3月26日には、2020年代後半までの量産化が発表された。
 
 ちょい乗りしたのは川崎のテストコース。
 
 その走りっぷりも気になるところだが、試乗後のインタビューで最も気になったことは、テスト車に搭載した燃料電池セルが中国の業界大手「Re-Fire」社製という点だ。
 
 思わずエンジニアに「自社開発はやはり無理なのか? あるいは親会社のダイムラー製は使えなかったのか?」と聞いたところ、冒頭の答えが返ってきたのだ。

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 ダイムラーは2019年、日本で燃料電池SUVのメルセデス・ベンツGLC・Fセルを発表。国内導入も決まっているし、燃料電池セルがないわけがない。
 
 だが、聞けば開発が急遽、決まったため「開発のタイムラインに乗らなかった」という。自社開発もそう簡単ではない。募集したところ、Re-Fireがいち早く応えてくれたのだ。
 
 Re-Fire社は上海にある独立系燃料電池サプライヤーで、燃料電池システムのインテグレーター(組み込み屋)でもある。

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 同社は、燃料電池開発のパイオニア、カナダのバラード社と技術提携を結んでおり、エンジニアも派遣されている。確かにそれならば信頼性も高いはず。

●トヨタ、ホンダに比べて出力はまだ低め

 さて、eキャンターFセルだが、ベースは2017年に発表された世界初の量産電気小型トラック、eキャンターだ。
 
 日本で50台、欧米では150台が納入済み、ヤマト運輸や北欧家具のイケアなどで使われている。

 総重量7.5トンのボディと135kWのモーターなどは基本、変わらない。
 
 肝心なのは航続距離で、いままでは80kWh台のリチウムイオンバッテリー搭載で100km程度しか走らなかったが、燃料電池ならば300km程度を目指すことができる。
 
 要は「そこにどうやって電力を供給するか」だが、いま現在eキャンター並みとはいかないようだ。
 
 燃料電池スタックと通常バッテリーとの合わせ技を使っているが、ノーマルeキャンターと乗り比べてみると明らかにパワー不足。とくに後半の伸びが違う。

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 燃料電池の作動に連動するコンプレッサー音も、アクセルに俊敏に付いていくわけではなく、そう簡単にドライバビリティを高められないことが伝わってきた。
 
「出力はトヨタさん、ホンダさんの3分の2ぐらい。やはりスゴいですよ」と語るエンジニア。

 聞けば燃料電池スタック開発は「化学と精密工学の融合。いままでのエンジン開発の方がよっぽど楽」だそう。

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 今後、市販版に本当にRe-Fire製スタックが使われるかは、いまだ未定だが、車両用燃料電池を作れるサプライヤーがいないのも事実だ。
 
 日本、あるいは中国、韓国、ドイツぐらいだろう。
 
 個人的には2019年、電動化技術のシステムサプライヤーになると宣言したトヨタにお願いしたいところだが、こちらはダイムラーグループ。トヨタが提携するBMWの手前、そういうわけにもいかないはず。
 
 中国の燃料電池ビジネスも、なかなか侮れないことがよく分かった試乗会だった。

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