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やればできる!80の大学と産官連携、日本の最先端技術がエンジン熱効率50%を達成

Writer:牧野茂雄 

産学連携のスーパーリーンバーン

31f9a305bff4cb8ea3e57d04f7c1579820eb7304.png▲2019年1月28日  SIP「革新的燃焼技術」最終シンポジウムの資料から 

 内閣府がとりまとめを行うSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の中に、日本のエンジン技術を底上げするための革新的燃焼技術というテーマがある。日本の大学と自動車メーカーおよび部品メーカーが協力し、次世代エンジンのための基盤技術を確立しようというプロジェクトだ。2014年度にスタートし、今年3月末で5年間のプログラムを終了するが、その成果報告会が1月末に東京大学で行われた。

 一連のプログラムの中でとくに注目されている項目が、ガソリンエンジンの熱効率を50%まで高めるスーパーリーンバーンユニットの開発である。慶應義塾大学大学院理工学研究科の飯田訓正特任教授を研究責任者とするチームは、全国の27大学および自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)が協力し合うという、日本で初めての大規模産学プロジェクトである。燃費向上につながるガソリンエンジンの熱効率は「1970年代に30%、その後40年かけても40%に到達する程度だった」と研究チームは指摘している。

 AICEはトヨタ、ホンダ、マツダなど自動車メーカー9社と産業技術総合研究所などで構成される共同研究組合であり、その活動の中には学術研究を担う大学と製品開発を行う企業との間の橋渡しという役割がある。今回、スーパーリーンバーン開発には政府予算が投じられた。そして、このほど行われた成果報告によると、正味の熱効率で50%を達成したという。

 研究責任者の飯田特任教授によると、最大のポイントは通常のストイキ(理論空燃比)燃焼に比べて半分の燃料(ラムダ=2)で燃やすことだという。これによって燃焼温度を下げ、窒素酸化物の生成を抑えながら素早く燃焼させる方法を確立した。ストイキは燃料1に対して空気14.7という重量比で燃焼させるが、SIPのスーパーリーンバーンは燃料が半分、つまり空気が2倍という薄い混合気を作る。

 過去、さまざまな自動車メーカーや研究機関がHCCI(予混合圧縮着火)という方式に挑戦してきた。燃料の薄い混合気を使い、ディーゼルエンジンのように点火プラグを使わないでガソリンを同時多点燃焼させる方法だ。この方法は運転領域が極めて狭く、まだ実用化には至っていない。

 SIPのスーパーリーンバーンは、従来は不可能といわれてきた低温燃焼(エネルギー損失が低い)であり、熱効率はHCCIと同等以上が期待されている。そのうえ、従来のリーンバーンエンジンでは致命的な問題だった窒素酸化物が減らせる。

スーパーリーンバーン.png

▲2019年1月28日  SIP「革新的燃焼技術」最終シンポジウムの資料から

 技術的なブレイクスルーはいくつもあるが、キーになった技術を紹介する。まず吸気に強いタンブル(縦渦)を与えたときに、どのような流動になるかの解析である。

 薄い燃料をうまく燃やすためには、空気と燃料を「よく混ぜる」ことが重要であり、近年はスワール(横方向の渦)をあえて使わず、タンブルだけを使う方法がガソリンエンジンでもディーゼルエンジンでも一般的になった。  今回、燃料が薄い状態でも燃えやすい混合気を作るためには、どのような強さと方向のタンブルを作り出せばいいのかが徹底的に検証された。検証のためのソフトウエアも開発された。

 その結果、最終的に直径1㎜以下の極小で回転の速い渦になり、燃料が燃えやすい状態に至る条件が発見された。吸気工程でシリンダー内に取り入れられた空気は、20〜50m/秒という強いタンブルによる高流動と5m/秒の乱流、さらにピストンの上昇によるタンブルの「つぶれ」現象によって、燃料が燃えやすい状態が作り出される工程が解明された、という。ラムダ=2(理論空燃比の半分の燃料で燃やす)でのこのような検証は世界でも初めてである。

 また、薄い混合気を燃やすための点火装置が重要だ。通常の点火プラグとは先端形状の違うタイプを数種類試作し、与える電流の強さとタイミングとともに検証した結果、前述の強いタンブルが生んだ極小の高速渦が点火プラグの先端を通過するときに高温状態となり、ごく短時間の弱い放電を繰り返すと燃焼室内全体に〝燃焼一歩手前〟という状態の極小渦が広がることがわかった。そして、その密度が高くなると、すべての極小渦が同時に燃焼を始める、という。このプロセスの解明も世界初だ。

 日本での産学連携によるこのスーパーリーンバーン研究は、世界的にも注目されていた。2018年7月にアイルランドのダブリンで開催された第37回国際燃焼シンポジウムでは、日本のスーパーリーンバーン研究に触発された後追い研究例が欧州や中国から報告された。しかし、実際に試験エンジンを使って市販前提の詳細なデータ検証を行った例は日本だけだ。

 この成果は、AICEに参加している国内自動車メーカー9社が共通で使える基盤技術である。同様に、SIPプロジェクトではディーゼルエンジンの燃焼や燃焼解析ソフトウエアの開発なども行われた。ディーゼルエンジンの熱効率も50%以上に到達している。

 これらの技術が製品に反映されるまでには「5年以上かかるだろう」といわれているが、ガソリンエンジンのリーンバーン研究において、現時点では日本が間違いなく世界のトップに立ったといえる。

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