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米国大統領選の行方に自動車業界が大注目。燃費規制はどうなるか?

Writer:牧野茂雄 

トランプ大統領の「ちゃぶ台返し」が燃費規制混乱の始まり

▲トヨタが2021年モデルから販売を予定しているRAV4PHV(米国名はRAV4プライム)

 今年の11月3日は米国大統領選挙の年だ。現職の共和党ドナルド・トランプ氏と民主党のジョー・バイデン候補の一騎打ちは、どちらが勝利するのか。いろいろな点で注目されている。自動車産業界からの注目度もきわめて高い。その理由は、どちらが勝つかで、燃費・排出ガスの規制の動向が大きく変わる可能性が高いからだ。

 まず、連邦規制としての燃費目標に注目が集まる。オバマ政権は2012年に「2025年までの目標」として、ガソリン1USガロン(約3.785リッター)当たり54.5マイル(約23.2km/リッター)を決定した。2016年までに35.5mpg(マイル・パー・ガロン、約15.1km/リッター)を達成し、2017年以降は徐々に平均燃費を高め、目標の54.5mpgを達成する計画だった。しかし、トランプ大統領はこの規制案を撤回した。

 米国の燃費規制は、自動車メーカーごとに全販売台数の燃費を集計し、その平均値が規制をオーバーしているかどうかを見るCAFE(企業別平均燃費)方式だ。平均値が規制値をオーバーしていると超過分の0.1mpgごとに5.5ドル/台の罰金が自動車メーカーに科せられる。

 トランプ大統領は、2026年モデル(2025年秋に販売開始)までは現在の規制値37mpgを据え置く方針を決定した。だが、バイデン候補が当選した場合はオバマ政権時代の54.5mpgが復活する可能性が極めて高い。

▲フォードは9月にルージュEVセンターを公開 EV仕様のF150トラックを2022年から生産する予定

 もう1点は、カリフォルニア州が独自に実施している排出ガス規制、いわゆるZEV(ゼロ・エミッション・ビークル=無排出車)規制の扱いだ。カリフォルニア州で一定台数以上を販売しているブランドに対し、年間販売台数の9.5%相当をZEVにすることを義務付けている。この9.5%相当とは、BEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル=外部充電式の電気自動車)、FCEV(燃料電池電気自動車)、一定距離を電動モーターだけで走行できるPHEV(プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)の各カテゴリーについて、カリフォルニア州が定めている販売1台当たりクレジットの合計である。電動走行の距離が長いほど、基本的にクレジットは有利になる。

 カリフォルニア州は、この9.5%を2025年以降に22%相当に引き上げることを決定している。BEV/FCEVの合計が16%相当、PHEVの6%相当を足して22%という計算だ。

 ところが、トランプ大統領は「勝手な州規制は認めない。カリフォルニア州が独自規制を導入する権利を剝奪する。ZEV規制は無効だ」と宣言した。カリフォルニア州はこれに反発し連邦裁判所に提訴、現在も係争中だ。

 カリフォルニア州は全米で最も自動車販売台数が多い。そして、カリフォルニア州規制に賛同しているニューヨーク、マサチューセッツ、アリゾナ、コロラドなど12州と合わせると、全米販売台数の約3分の1を占める。カリフォルニア州のニューサム知事は民主党であり、当然、バイデン候補の当選を願っている。

 この、燃費と排出ガスにかかわるふたつの規制が先行き不透明になったことで、自動車メーカーは困惑している。もし、連邦燃費規制がトランプ案のままになれば、販売モデルは燃費をそれほど気にする必要はなくなる。バイデン候補が当選すると、将来目標が一気に高くなるため、ハイブリッド車の設定やエンジン排気量の見直しなどが必要になる。

 カリフォルニア州規制は、さらに対応が難しい。バイデン候補当選の場合は、カリフォルニア州規制を導入する全13州についてBEVとPHEVのラインアップを拡充させなければならない。開発に必要な時間を考慮すると、すぐにでも商品企画をまとめなければ、2025年に間に合わなくなる。

▲トヨタ・プリウス(2020年モデル)

日系自動車メーカーほか、各社の燃費規制対策

 日系自動車の場合、トヨタはPHEVメインの対応になると予想される。RAV4などにPHEVを設定しているほか、連邦規制に対してはHEV(通常のハイブリッド車)販売強化で対応する。

 ホンダは北米で販売するBEVについてGM(ゼネラルモータース)との間で提携。GMと共同開発するBEVのホンダ仕様を、GMが生産しホンダに供給する方針が決まっている。これは日欧で販売するホンダeとは異なるモデルだ。

 GMは9月、今後の電動車に採用する5つのパワートレーンを発表している。アルティウムドライブと名付けられ、性能面でもコスト面でもアドバンテージを持つユニットだ、とメーカーは説明。アルティウムバッテリーセルと組み合わせて 「フル充電で航続距離約640kmのシステムもある」という。

▲GMは10月21日にEV技術“アルティウム”を使ったハマーEVエディション1を発表 3モーターを搭載(1000ps相当)

 日産は新型エクストレイル(米国名ローグ)に三菱自動車が開発したPHEV仕様を設定するほか、シリーズHEVのeパワー系の投入も検討している。マツダはトヨタと共同開発するBEVを投入するほか、独自開発のHEVとBEVを北米に投入する予定。SUBARU(スバル)は北米仕様のXVにPHEVを設定している。カリフォルニア州規制が強化されることを想定して、日系メーカーはすでに準備を整えている。

▲北米で販売されているスバル・クロストレック(日本名XV)のPHV仕様

 一方、フォードはVW(フォルクスワーゲン)と電動分野で提携した。自前のマスタング・マッハEだけでなく、VWと共同開発するBEVの供給をVWの米国工場から受ける。クライスラーは、FF車についてはPSAと共同開発する電動ユニットを採用し、FR車については独・ZF製のモーター内蔵8速ATを購入して対応する計画。

 メーカー各社は、それぞれ規制強化への対応を進めている。世界的に気候変動(温暖化)に対する危機意識が高まる中で、二酸化炭素の排出を抑えたモデルを求めるユーザーは増えるだろう。オートモーティブニュースのデータによれば、EVメーカー、テスラは今年上半期に8万9600台を販売。アウディ(7万6210台)を超えている。

 とはいえ、もしトランプ大統領が再選して緩い規制が続くとなると、北米のユーザーが好むV型6気筒3.5リッター以上のエンジンを搭載するモデルを充実させる必要がある。自動車メーカー各社にとって、今回の大統領選挙は大きな意味を持つ。

▲フォード・マスタング・マッハE

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