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池田直渡のクルマのパースペクティブ「第3回中編:リーマンショックの徹底反省が生んだトヨタ・TNGA改革のインサイド」

Writer:池田直渡 Photo:池田直渡,TOYOTA

いまや世界トップを争う1千万台メーカーとしての地位を確立したトヨタ。20年前の生産台数は530万台ほどでした。そこから目覚ましい躍進を見せたトヨタを突如、リーマン・ショックが襲いました。無理を重ねていた生産ラインは、急速な市場のシュリンクに耐えられず、稼働率が大幅にダウン。トヨタに莫大な赤字をもたらしました。二度とそうした事態に陥らないことを誓ったトヨタが行った改革が、TNGA改革です。今回はその顛末をまとめてみました。

■意思ある踊り場

▲2015年3月に初公開されたGAーCプラットフォーム 2012年に事前告知されたFF系3種のプラットフォーム開発の第1弾として新型プリウスが採用

(前編より)

 14年5月の決算発表で、豊田章男社長は「意思ある踊り場」を口にした。

 実は前年の13年からすでに取り組みは行われており、13年から15年までの3年間、強い意志で新規の工場建設を凍結し、そのリソースを既存工場のカイゼンに当てた。その目標は極めて具体的で「ラインを少しでも短く」「ロットに頼らない生産」の2つをメインに押し立てた。

 要するに、何十台分かまとめなくては作れなかったラインを1台でも作れるようにした。一例を挙げれば、熱間プレスを必要とする高張力鋼を、まとめて窯で加熱する方法を改め、単品ごとに電極をつないで電気で加温できるようにした。

 多品種少量やカスタム仕様などにも対応できるこの方法は、それまでの脆弱点を補完するとともに、新しい可能性をも持つ方法だ。これはおそらく後のGRファクトリーへと続く布石となっている(2020年12月号記事参照)。

▲プリウスに続くGAーCプラットフォーム採用第2弾として2016年3月にCーHRがジュネーブ・モーターショーにてデビュー

 多品種少量生産を目指した設備ということは、つまり単一車種専用ラインを極力減らすということになる。大ロットを要する工程や、車種専用設備を減らし、それらを用いたやり方と同じ時間、あるいはより短い時間で生産可能な新たなラインを開発する。当然それは旧来のラインより短くなければ不可能だ。

 この方法は価格低減のメリットも生み出した。少し大袈裟にいえば、たとえばこれまでヴィッツで使っていた車種専用設備は、ヤリスに変わるとほぼすべて刷新しなくてはならなかった。特定製品を最速大量に作ろうとすれば、設備は専用化し、他のクルマには使えなくなる。これを汎用性のある設備に置き換えるとどうなるか?

 現在のヤリスが次世代ヤリスへとモデルチェンジする際には、従来ほどには設備の入れ替えが必要なくなる。これによりトヨタはモデルチェンジに要する新規設備投資費用を25%削減してみせた。しかも、その削減割合は今後もさらに増えていくと思われる。

▲2018年リリースの新型カローラはGAーCプラットフォームだけでなくTNGAによって新開発されたパワートレーン系をフル搭載

■新世代シャシー

 さて、それではクルマそのものの設計はどう変わったのだろうか?

  いわゆるTNGA世代のシャシーは、下から、BセグメントのGA―B、CセグメントのGA―C、Dセグメント以上のFFクラスを受け持つGA―K、それにFR用のGA―Lで構成される。このほかに軽自動車からAセグメントを受け持つ、ダイハツのDNGAが加わった。これはトヨタでいえばライズに使われる。

▲より大きなFF系GAーKプラットフォームは2017年誕生の新型カムリと2018年登場新型RAV4が採用している

 この新世代シャシー群は、これまでと何が違うか、から書き始めなくてはなるまい。

 実はTNGAは広義にはコモンアーキテクチャーという考え方に含まれる。それ以前の「プラットフォーム共用」とは概念が違う。

 プラットフォーム共用は要するに部品の共用であり、コストダウンを目的とした部品の使い回しである。

 ではコモンアーキテクチャーは、といえば、コストダウンが大事なのは変わらないが、大きく違うのは最初から個別の商品を個性的に仕立てることがコストダウンとイーブンな重要目標に含まれている点だ。

▲FR系を受け持つGAーLプラットフォームはレクサスLC/LSや新型クラウンが採用 パワートレーンの低重心化や前後重量バランスの最適化などを徹底追求した

 つまり、プラットフォーム共用では部品の共用は多ければ多いほどいい。

 しかしコモンアーキテクチャーでは、共通で行くべきベース部分と、絶対に変えなければならない部分をあらかじめ明確化して2階建てで設計する手法で、商品ごとの個性とコストダウンを両立することを目的としている。それが「固定と変動」である。

▲新型クラウンは2017年東京モーターショー出展後2018年6月リリース スポーティなフォルムとハンドリング そしてコネクテッド機能が話題を集めた

 ただし、各社で少しずつ様相が違う。

 コモンアーキテクチャーを最初に提唱し始めたマツダの場合は、基礎開発でのコンピュータ解析を活かすことに集中し、極端にいえば「数理モデルを共用化」することが目的であり、部品の共用は副次的である。部品そのもののコストは知れている。高いのは基礎実験の膨大な手間隙だとマツダはいう。

 おそらく現時点で、最も急進的なのはマツダのやり方で、これにトヨタが続く。フォルクスワーゲンのMQBは、どうもコモンアーキテクチャーというより部品群のコンポーネント化、つまり順列組み合わせによるバリエーション化の意味合いが大きい。

 日産やホンダは、いままさに取り組み中で、果たしてどのようなコモンアーキテクチャーが仕上がってくるのか楽しみである。

 という具合にコモンアーキテクチャーと呼ばれる手法はまだ明確な基準がなく、メーカーごとに異なるアプローチになっている。

(後編へつづく)

【本稿はカー・アンド・ドライバー本誌2021年2月号掲載分をウェブ用に加筆修正したものです】

著者:池田直渡(いけだなおと)●1965年神奈川県生まれ。1988年ネコ・パブリッシング入社。2006年にビジネスニュースサイト編集長に就任。2008年に独立後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行うほか、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている

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