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天然ガスパイプラインが支える欧州エネルギー事情の泣き所

Writer:牧野茂雄 

▲ノルドストリーム(番号1)はロシアのビボルグからドイツのグライスフバルトを結ぶ天然ガスのパイプライン
▲ノルドストリーム(番号1)はロシアのビボルグからドイツのグライスフバルトを結ぶ天然ガスのパイプライン

 ウクライナに軍事侵攻したロシアに対する経済制裁が進んでいる。その中で最大の焦点になっているのが天然ガスだ。ロシアは現在、主に3つのパイプラインを使って天然ガスを西欧諸国に供給している。

 これらすべてが停止すると、欧州は深刻なエネルギー不足に陥る。EU(欧州連合)は「ロシアからエネルギーを買わない」ことで各国の足並みをそろえようとしている。
 
 5月に開催されたVW(フォルクスワーゲン)グループの2022年第1四半期決算発表でヘルベルト・ディースCEO(最高経営責任者)は「ロシアからの石油と天然ガスの調達停止に備え、再生可能エネルギー利用拡大と石炭火力発電の改良に取り組む」と語った。「われわれの車両工場では、エネルギー消費の多くが塗装工程で消費されている」ことも明らかにした。

 ディースCEOの発言は、石炭火力発電の利用を拡大するという意味ではない。太陽光など再生可能エネルギーは24時間365日、つねにフルで利用できるものではなく、利用できないときには他の手段を使わなければならない。

 欧州では、その再エネ・バッファー(補完手段)が天然ガス火力である。しかし、ロシアからの天然ガス購入を停止した場合には、EU域内でまなかえる「褐炭」を使った火力発電を使う状況を迎えるが、その発電効率を改善する、という意味だ。

 欧州での統計を見ると、産業用エネルギーのほとんどを天然ガス火力発電に頼っている現状が示されている。自動車の生産は、得られる利益に対しエネルギー消費コストはそれほど大きくなく、同時に再エネ導入も進んでいる。たとえばジンデルフィンゲンにあるメルセデス・ベンツの工場では、エネルギー需要の45〜50%を再エネが担っている。

 その一方で、ドイツ環境庁のデータによると、2020年のドイツの全産業でのエネルギー消費量の50%以上は天然ガスまたは石炭によるものであり、その多くはロシアから供給されたことがわかる。

 これを再エネで代替することは極めて難しい。必ずバッファーが必要な再エネ発電の設備よりも、火力を常時稼働させるか原子力を動員するほうが、当面のコストは抑えられる。

 本来、ドイツはロシアからの天然ガス供給量を増やす予定だった。昨年6月と9月に完成したバルト海の海底を走るパイプライン、ノルドストリーム2は、2012年までに完成したノルドストリーム1と同量の年間550億立方メートルをロシアからドイツに運ぶはずだったが、ロシアによるウクライナ侵攻準備が始まった2月下旬にドイツのオラフ・ショルツ首相は、ノルドストリーム2の認証作業を停止した。

 ロシアから欧州への天然ガス輸出は、すべてパイプラインで行われる。ウクライナ国内を経由する通称ウクライナ・コリドーは年間1700億立方メートルの移送量を持つが、ロシアとウクライナとの間にはガス料金交渉の決裂や料金未払い、勝手なガス採取といった揉め事が絶えなかった。

 そこで西欧諸国は「ウクライナを通らないルート」のガスパイプラインを望んでいた。これにロシア国営のガス会社、ガスプロムなども賛同し、ノルドストリーム構想が持ち上がったといわれている。

 もうひとつ、ベラルーシを通過するルートも年間1000億立方メートル以上を運んでいる。

 一方、ガス産出国のノルウェーからは、海底パイプラインでイギリス、ベルギー、フランスなどにLNG(液化天然ガス)を船で輸入する設備がない。とくにドイツにはLNG受け入れ設備は皆無で、遠方から船で輸入するという選択肢がない。

 欧州の自動車産業は当面、半導体とエネルギー、両方の「不足」に耐えなければならない。ピンチをチャンスに変えるヒントはないか。

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