【サマーバカンス特集】5大フィヨルドのひとつを訪問/スカンジナビア1

名コラムニスト、栗田亘さんのスカンジナビア紀行、その1。ノルウェーの5大フィヨルドのひとつ、ソグネフィヨルドの景色を楽しんだ。1万年という長い時間が作り出した自然の絶景を船から鑑賞した。

ノルウェー・ソグネ・フィヨルドの絶景

ソグネフィヨルド・メイン.jpg▲フェリーが発着するソグネフィヨルド最奥の町フロム 人気の高い登山電車の発着点でもあってレストランや土産物店がある

 7月末、北欧の3カ国、ノルウェー、スウェーデン、デンマークを訪ねた。

 この夏、日本列島は空前の炎暑、酷暑、熱暑に見舞われている。最高気温は繰り返し40度を超えた。甚暑(甚だしい夏)なんて言葉があることも、ボクは初めて知った。

 日本だけではない。地球の温暖化によって、南半球の各地で高温による森林火災、干ばつなどが頻発している。

 北欧も例外ではない。ノルウェーの北極圏で33・5度を記録。ストックホルム(スウェーデン)に長年住む日本人ガイドは連日の30度超えに「過去200年で初めての異常高温だそうです」と言い、コペンハーゲン(デンマーク)では「水不足で庭の水撒きは禁止。植物は渇きに喘いでいます」と聞かされた。

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 ノルウェーの北極圏、と前に書いた。そう、ノルウェーには北極圏に属する地域があり、国土の3分の1にも及ぶ。北緯66度33分から北が北極圏。太陽が一日中、地平線よりも下に沈まない日と、地平線から上らない日が1年に一日以上あり、その日数は北極(北緯90度)に近づくほど多くなる。

 今回もボクと連れ合いは、ツアーを利用した。一行は18人。

 成田発のスカンジナビア航空機はシベリアからロシア上空を飛んで、約11時間後、ノルウェー第2の都市、ベルゲンに到着した。

 成田とベルゲン間に定期便はない。日本からのツアー客が増えれば臨時直行便を出す。機内にはボクらのほかにもう1社のツアー客が居り、一般客も含め満席だった。

 ベルゲン? 浅学のボクは、どこかで聞いたかしら、という程度の認識しかなかった。あとになってヨーロッパ史上かなり有名な街と知る。

 機中、座席の前のモニターに飛行機の針路が映し出される。ロシアからフィンランド上空を越え、ボスニア湾を横切ると、スカンジナビア半島のスウェーデン、ついでノルウェーが現れる。入り組んだ海と点在する湖水、山頂の万年雪。

 水浸し、といってはミもフタもないが、これほどまでに水に満ちた国土だとは想像していなかった。北欧の地理についてボクは、知っているようで実はほとんど知らないことに、あらためて気づく。たとえばノルウェー、スウェーデン、フィンランドの位置と形を描けと言われても、茫然とするばかり。

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 ノルウェーに着いて3日目。ボクたちは5大フィヨルドと呼ばれるうちのひとつ、絶景が世界遺産となっているソグネフィヨルドの日帰り遠足に出かけた。

 滞在しているベルゲンから電車と公共バスで約2時間。小さな村、グドヴァンゲンに着き、ここでフィヨルド観光のフェリーに乗る。

 フィヨルドとはノルウェー語起源の英語で、氷河に侵食されたV字型の谷に海水が進入して生まれた細長い入り江のこと。

 100万年前のノルウェーは、1000~2000メートルの分厚い氷河に覆われていた。厚みを増した氷河は、渓谷から押し出され、海へと押し流される。氷河の後退は1万年前に始まり、6000年前には現在のノルウェーの地形となった。

 北海に続くノルウェー海に面した西海岸は、首都オスロがある東側に比べ、フィヨルドが複雑に内陸に入り込んでいるのが特徴だ。

 ノルウェーの総面積は日本に近い。より正確にいえば、九州と新潟県を合わせた分だけ日本が広い。

 一方で海岸線の長さは、フィヨルドに富んだノルウェーのほうがずっと長く計8万3281キロ(カナダについで世界第2)、日本は2万9751キロ(世界で6番目)だ。

 出航地のグドヴァンゲン(語源は、神と草原)は、すでに19世紀の終わりには、フェリーで町や村を行き来する旅人たちでにぎわっていたという。フィヨルド地方の交通手段は、昔から、険しい陸地づたいよりも船=フェリーだった。

 ソグネフィヨルドは全長204キロ、最大水深は1308メートル。ヨーロッパでいちばん長く、深いフィヨルドで、しかも複雑に枝分かれしている。ボクらが航行するのは枝分かれ部分のネーロイフィヨルドと、それに続くアウルランフィヨルド。およそ2時間のクルーズだ。

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 乗船したフェリーは、200人以上は入れそうなガラス張りの大きな船室を備えていた。舷側のデッキは船首と船尾に通じ、緩やかなスロープを上ると屋上デッキに出られる。

 日差しは厳しいけれど、風は心地よい。かなりの人が船室ではなく、外で景観を楽しんでいる。ボクも連れ合いも、ほとんどの時間を外で過ごした。

 左右のナイフで切ったような岩肌は、木々の緑によって鋭さを削がれている。あちらに、また、こちらに、大小の滝が流れ落ちている。水源は標高1000メートル近い、雪解け水を集めた山上の湖だ。

 フェリーに付き添って、カモメが群れ飛び、ここは湖でも川でもなく、外洋から入り込んだ海だということを再認識させられる。すれ違う別のフェリーも、カモメを引き連れている。観光客がクッキーなどを投げ与えるからだろう。

 驚いた! フィヨルドで泳いでいる人がいる。1、2、3、4......。あっちにもいる。日本の海に比べ水は冷たい。元気さに拍手を送る前に、大丈夫だろうかと心配になる。

フィヨルドでカヌー.jpg▲フィヨルド海面は外海と違って穏やか 短い夏を惜しんでカヌー/ヨット/モーターボート/水泳などのアクティビティが盛ん

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 フィヨルドは海水である。ただし北の海は塩分が薄く、加えてフィヨルドには無数の川と滝が流れ込むので、末端部は淡水化しているところもあるそうだ。

 メキシコ暖流のおかげで、冬でも凍らず、天然の良港がいくつも存在する。ソ連時代のロシアが軍港として狙っていたという話も耳にした。

 ネーロイとアウルランのふたつのフィヨルドの境の辺りにサゲルヴイ滝がある。このクルーズでは最大の滝で、かつて日本画の巨匠、東山魁夷が描いたという。

 時速は20キロほどか。2時間後、フェリーはソドムフィヨルドのどん詰まり、フロム港に到着した。

 ボクたちはここから登山鉄道に乗る。以下の報告は次号で。

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