連載42回 なぜヤリスはフィットより売れるのか? 新型コンパクトカーの意外な秘密

TOP.jpg小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』

●最初は当たらないと思っていたが...

 まさかこんなに売れるとは!!
 
 そう、1ヶ月の受注がいきなり3万7000台と、同3万1000台のホンダ・フィットを抜いた新型トヨタ・ヤリスです。
 
 今回、ようやく公道で乗れました。

フロント.jpg▲トヨタ・ヤリス1.5リッター・G(FF) 価格:6MT 170万1000円/CVT 175万6000円
 
 元々は「ヴィッツ」と呼ばれていた1999年生まれのコンパクトハッチ。しかし、4thモデルへの進化と同時に、欧州名「ヤリス」へ改名しました。
 
 理由は2つ、このままだと同じトヨタの「アクア」とシェアを奪い合うので、濃厚なキャラクターに進化させたかった点。そしてもう一つは2020年ラリー・ジャパン(WRC:世界ラリー選手権の日本ラウンド)の復活です。
 
 日本ではさほど知られていませんが、ヤリスはそもそも欧州でプジョー、シトロエン、ヒュンダイなどと競い合う俊敏なスポーティコンパクトです。
 
 久しぶりにWRC(世界ラリー選手権)が国内で復活、雄姿を見せると同時に、ファミリーイメージの「ヴィッツ」をスポーティで凝縮感ある「ヤリス」に昇華させたいのです。

リア.jpg▲躍動感のあるリアスタイル 全長3940×全幅1695×全高1500㎜5ナンバー規格
 
 とはいえ、乗る前はフィットには敵わないかも? と思っていました。
 
 トヨタ・コンパクトのメインは2021年に発売が予想される「2ndアクア」でしょう。
 
 とりあえずヤリスは様子見では? と。
 
 なぜなら新型ヤリスは、広々ミニバンや背高ノッポKカー全盛の日本に、「凝縮デザイン」と「走り味」で勝負に出た反逆児だからです。
 
 いまどき広さではなく、狭さと味で勝負! という。

●ドライバーズカーを実感する作り

 まず、小沢は人気のハイブリッドではなく、2番人気の1.5リッターガソリンに乗ることができましたが、スポーティさは圧巻。

 第一の注目はスタイリングです。
 
 全長×全幅×全高は3940×1695×1500mmと、旧型比で5mm短く実質30mm低くなっています。

真横.jpg▲新開発TNGAプラットフォームによる低重心化を達成 真横から見ると前席優先の考え方が明確にわかる
 
 見た目も、フロントはヴィッツのイメージが残っていますが、リアは横一線の「棚」のようなガーニッシュが圧倒的スポーティ感を発揮。
 
 車内のスペースは旧型とほぼ変わらないといいますが、いきなり超広々視界の新型フィットとは真逆の方向。
 
 フロントシートからしてタイトで、リアシートには一応身長176cmの小沢が座れますが、車格の違いを感じるほど。
 
 同じ4m以下コンパクトなのに! ラゲッジ容量も200リッター台と露骨に狭め。

●ヤリスはほかにない二面性が強み

 かたや走りのスポーツ度は想像以上。

 テストコースで乗ったときは乗り心地の良さばかり感じましたが、公道では不快ではないものの、結構ゴツゴツ感もあるソリッドさを確認。
 
 大人しいコンパクトカーというより、コンパクトカーの皮を被ったスポーツカー的! 
 
 さらに発進の「出足感」が素晴らしく、骨格たる新投入の新作1.5リッターダイナミックフォースエンジンが秀逸。

エンジン.jpg▲高速燃焼を徹底追求した素晴らしい完成度の新開発1.5リッター直3DOCH12V ダイナミックフォースエンジン
 
 ピークパワー&トルクは120ps&145Nmと大袈裟ではないものの、車重がホワイトボディでマイナス50kg!
 
 試乗した「G」グレードでも車重1トンと軽いうえ、発進用の1速ギアを設けたダイレクトシフトCVTの効果大。
 
 アクセルを踏むなり間髪入れず気持ち良く立ち上がる。
 
 その感覚はMTのスポーツカー的な味わいすらあります。

 さらにステアリングに対するレスポンスがいい。
 
 遅れがないだけでなく、手応えもガッチリ上質。ファミリー向けであるヴィッツが、スポーティなヤリスに生まれ変わっているのです。

ダッシュ斜め.jpg▲3本スポークステアリングは手応えしっかり スポーティな走りのリズムを生み出す
 
 とはいえ、小沢は販売状況の内訳を見て愕然としました。

 実は量産車世界最良燃費とも目されるWLTCモード燃費36km/Lのハイブリッドの割合は45%と、多いけれど過半数を超えていません。
 
 それ以上に聞いてビックリ! なのは、購入年齢60代以上が50%。
 
 本当の売れ筋は1リッターと1.5リッターのガソリンなのです。
 
 ここまで来て、見えてくるのは「意外なるヤリスの二面性」。
 
 確かにハンドリングの良さは大きなメリットですが、パワートレインは量産車世界最良燃費となるはずのWLTCモード36km/Lの1.5リッターハイブリッドに加え、スポーティな1.5リッターガソリン、安価な1リッターガソリン、さらにWRCベース車となるGRヤリスまでラインアップしています。
 
 つまり「世界レベルのスポーティコンパクト」であると同時に、「扱いやすい年配向けコンパクトカー」でもあるのです。

後席.jpg▲後席スペースは開口部も含めてミニマム 後席を頻繫に使うユーザーは要確認ポイント

 トヨタは公表したがらないかもしれませんが、購買平均年齢は50代近い可能性があります。
 
 そこにはヴィッツで培ったダイハツ製を除く伝統の「トヨタ最小コンパクト」という厳然たる事実が光ります。
 
 ヤリスに名前は変わりましたが、実質半分はヴィッツでもあるということなのです。

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