シトロエン物語 その1

Writer:間宮達男 Photo:Centre d'Archives de Terre Blanche

エッフェル塔を宣伝に活用。近代的広告手法の発明者

 アンドレ顔.jpg▲アンドレ・シトロエン(1878〜1935年)

 富士には月見草がよく似合う、と太宰治は書いているけれど、シトロエンにはエッフェル塔がぴったりだ。

『翼よ、あれがパリの灯だ』を、チャールズ・A・リンドバーグの手記で読んだ人もいるだろうし、ジェームス・スチュワート主演のワーナー・ブラザーズ映画(1957年度作品)を覚えている人もいるだろう。シトロエンは、ちゃっかりとエッフェル塔に〝化身〟して、その歴史的瞬間に登場しているのである。

 話はこうだ──。

 1927年5月20日朝、リンドバーグは単座単葉機〝スピリット・オブ・セントルイス号〟──手記も映画も原題は搭乗機の名だけ──に乗って、アメリカ、ニューヨークのロングアイランドを飛び立ち、史上最初の大西洋横断飛行に挑戦した。そして孤独と睡魔と闘いながら、翌21日の夜10時、パリのル・ブールジェ飛行場に着陸した。記録は33時間39分20秒の苦闘の末に達成された。

 映画は監督ビリー・ワイルダー、主演ジェームス・スチュワートの、手腕と熱演が成功して、稀にみる感動編になったが、むろん、見せ場はラストの〝翼よ、あれがパリの灯だ〟の描写だった。

リンドバーグポスター.jpg▲見出しは「シトロエン工場のリンドバーグ」 1927年5月21日・土曜日にリンドバーグが到着した様子を伝えている

シトロエンとエッフェル塔

 筋は知っていたものの、やはり、その一瞬、やったァと拍手したものである。

 リンドバーグは、手記の中にこう書き残している。

「進路の行く手にぽっかりと月でも出たように、ほのかな白光が見えはじめる、パリが大地の端からせり上がってくる。......無数のピンの点のような明りが現れる。星空の下に星の輝く大地のひろがり──パリの灯だ──光の直線、光の曲線、光の方形。大通り、公園、建物などの輪郭が現れてくる。はるか下方に、上に向かって点々と伸びる光の柱がある──エッフェル塔だ......」(佐藤亮一訳から)

 シトロエンは、このエッフェル塔に化身していたのだ。その夜リンドバーグが見たのは、地上320メートルのエッフェル塔の頭から足もとまでにわたって灯された、CITROËNの電光サインだったのだ。25万個の電灯で描かれたといわれ、2年前の夏、シトロエン5HP発売を期して展開された広告作戦だったのが、リンドバーグの大西洋横断の成功と、ぴったりと重なったわけである。

シトロエン5H_1923年.jpg▲1923年製シトロエン5HP(1925年製というデータもある) シトロエンはこのクルマを宣伝するためにエッフェル塔に電灯で装飾を施した

 その夜、パリ中、いやフランス中が沸き立ってリンドバーグ歓迎に酔いしれる。人間も機体も大成功を祝う群集にもみくちゃにされ、飛行機の部品やリンドバーグの飛行帽まで持ち去られる騒ぎになった。

 シトロエンは、この絶好のチャンスをさらに利用した。年代記作者は書き残している。

「このときの宣伝はまったく徹底して凄かった。リンドバーグはその夜はパリのアメリカ大使館で休養をとったが、その後のパーティーはシトロエン社で開かれ、〝一躍有名になった飛行家〟はシトロエンの手でアメリカ大使館から〝さらわれて〟しまった。シトロエンは全従業員を集めてリンドバーグの偉業を紹介したが、その模様は、〝世紀の英雄〟を追いかけていた報道陣によってあますところなく伝えられたから、これもまた大変な広告になったものである」と。

 以来、シトロエンの宣伝にはエッフェル塔がついてまわる。そして、ボクたちは、シトロエンのブランド・マーク、二重山型「《」印(ダブル・シェブロン)と馴染みになる。

 シトロエンの、このエンブレムは、アンドレが若いころポーランドのロッツで見かけた山型ギアに由来しているが、このギアとの出会いがシトロエン社の礎石となったのであった。

山形歯車.jpg▲アンドレ・シトロエンが最初に手がけた事業は山形歯車の製造だった この歯車の形状がシトロエンのブランドエンブレムになる

シトロエンのロゴ歴史.jpg▲シトロエンのブランドロゴの変遷

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